ワインの保存・長期熟成方法、ワインセラーの知識や知っておくべきこと
このページでは、ワインの熟成やワインセラーについて購入前に知っておくべき知識や注意点について記す。
もくじ
ワインセラーの3つの冷却方式
ワインセラーの冷却装置はエンジンと呼ばれる。といっても、英語圏のサイトを見る限りではこれらをエンジンと呼んでいる様子は見られない。
冷却方式にはコンプレッサー式とペルチェ式とアンモニア熱吸収式の3種類がある。ただし市場でよく見られるのはコンプレッサー式とペルチェ式の2種類である。
- アンモニア熱吸収式
コンプレッサー式と同様に冷媒の気化熱を用いた方式。冷媒にアンモニアを使用している。コンプレッサー式よりも静音性に優れているが、電気代が高い・冷却能力が低いなどのデメリットがある。
- コンプレッサー式
モーターによる圧縮機を使った冷却方式。1時間~数時間に一度の頻度でON/OFFを繰り返してセラー内の温度を維持する。インバーター機能付きのコンプレッサーの場合、必要な分だけ出力を調整できるので温度の安定性が向上し、電気代も省エネになる。
ペルチェ式に比べて電気代が大幅に安い反面、本体価格は高い。(多くの製品が5万円以上)
冷却能力はペルチェ式に比べて5倍~10倍高いので、真夏でもしっかり冷やすことができる。
冷却機能しか搭載していないものや、電熱ヒーターを併用することで真冬にセラー内の温度を上げる機能を持つものもある。
高級なワインセラーはコンプレッサー式を採用している。
- ペルチェ式(ペルティエ式)
物理学者、ジャン=シャルル・ペルティエが発見した原理であるペルティエ効果を利用したペルティエ素子という電熱素子による冷却方式。
- ペルチェ素子(ペルティエ素子)
ペルティエ効果を生み出す電子部品。半導体素子。
- ペルティエ効果
2種類の異なる金属の接合部に電圧をかけて電流を流すと、片方の金属からもう片方の金属へ熱が移動する原理のこと。逆に、温度差から電圧を生み出す熱電効果をゼーベック効果という。
コンプレッサー式に比べて冷却能力は低く、ほぼ常時稼働している。
能力的には室温から10℃くらいしか上げ下げできないので、真夏にエアコンを使わず、室温が30℃を超えるような場所では不向き。
ペルチェ素子自体はただの電子部品なので振動や騒音を発しないが、排気ファン・庫内ファンが騒音や振動の原因となるのでペルチェ式でも完全な無音・無振動にはならない。製品によってはコンプレッサー式の方が静かなものもある。
構造が簡素で部品点数が少なくて済むので、本体価格はコンプレッサー式よりも安い。1万円前後の製品もある。
しかし電気代は数倍高い。比較する製品の性能や使用環境、測定方法によっても大きく異なるが、ワインセラーメーカーのさくら製作所によると1日あたりの電気代は、他社のペルチェ式が50~56円に対してコンプレッサー式は6円。年換算にすると2190円と18250で16000円ほどの差が出るとしている。3
ただし1日6円というのはかなり安い方で、コンプレッサー式でも1日10円~15円かかる製品はザラにあるので、実質的な年間の電気代としては、コンプレッサー式で5000円~1万円、ペルチェ式で2万円くらいだと思った方がいい。(それでもやっぱり1万円~15000円の差がある)
ペルチェ素子の寿命が2~3年で、劣化して故障したという話も見かける。しかしコウデンのサイトを見ると、従来のペルチェ素子は2900サイクルで破損し、タイセーのペルチェ素子では10万サイクルにも耐えたというデータを紹介している。(長寿命と厚さ精度について)
要するにペルチェ素子にもピンキリあるので何とも言えない。
こうしてみると、本体価格、ランニングコスト、冷却能力、どれを見てもペルチェ式のメリットはあまり見当たらず、購入するならコンプレッサー式の方がお得だということが分かる。
ワインセラー設置直後に電源を入れてはいけない
冷媒を使っているワインセラーの場合、セラーを搬入して部屋に設置した時や室内を移動させた時は少なくとも30分以上は電源は入れないこと。性能が十分に発揮できないなどのトラブルが発生しやすい。
理由は、冷蔵庫と同様にコンプレッサー内の冷媒ガスが安定していないから。これは各ワインセラーの製品説明書にも書かれている。
製品にもよるが、ユーロカーブ レヴェラシオンだと「48時間は電源を入れないように」と注意書きがある。
ワインの長期熟成
保管、熟成を業者委託する
ワインセラーを自前で用意したり、あるいは納戸で熟成させるというのも方法のうちの1つだが、寺田倉庫などに外部委託して保管するというのもアリではないか。ちゃんとワイン専用の保管のコースもある。
ただし1本90円/月額なので、10年保管すると1本でも10800円かかる。飲みたい時にすぐに飲めないというデメリットがある。一応当日宅配は可能。1級ワインを何倍もの価値になるまで熟成させれば利益が出るので、資産運用の一環だとか定期預金のような感覚で預けることになる。
「ワインを美味しく飲みたいから熟成させる」、そういう視点の方が強いひとであれば、リビングなど室内のディスプレイを兼ねてワインセラーを購入することをオススメしたい。以降、ワインセラーでの熟成について記述する。
ボジョレー・ヌーボーも熟成させることができる
「ボジョレー・ヌーボーは新酒のフレッシュさを味わうもので鮮度が落ちると美味しくなるくなる」というのが世間の常識だが、クオリティーによっては可能な場合もある。詳細は別ページにまとめたので下記リンクを参照して欲しい。
ラベルにカビが生えることは悪いことではない
ラベルにカビが生えるということは、湿度が十分にあるのでワインの熟成環境としては好ましい証拠だ。
ただし当然ながら、ラベルにカビが生えること自体は衛生的とは言えない。これは中身のワインそのものが不衛生になるという意味ではない。なんとなく汚いよね、という意味。「カビが生えている方が年期が入ってるように見えるし、雰囲気があって良い」という人もいる。
ラベルを湿気から保護しつつ長期熟成する最も簡単な方法は、ボトルにラップフィルムを巻くこと。ラップを巻いた状態でセラーに収納すれば、結露や水滴によるカビの繁殖で劣化するのを防ぐことができる。
温度変化は悪いことではない
ワインの熟成には一定の温度維持が必要だと考えている人もいるが、年中一定の温度である必要はない。ブルゴーニュ地方などの歴史ある「カーヴ(Cave)」では夏場は16~17℃、冬場は10~11℃で、一年を通して5℃~7℃程度のゆるやかな温度変化がある。
- 英語のCave(ケイヴ)
横穴; 洞窟; 洞穴
- フランス語のCave(カーヴ; カーブ)
地下室。英語のCellarと同義。
フランス語のCaveはCellar(穴蔵; 倉)と同じ意味を持つ。つまり貯蔵庫を意味する。
夏場に膨張してコルクがワインを吸い込み、冬場に収縮することで外気を吸い込む。酸化還元熟成をするには必要な動きだ。
最高級ワインセラーメーカーのユーロカーブは、貯蔵の最適温度は10~14℃だとしている。飲み頃温度では赤ワインは15℃、白ワインは8℃、シャンパーニュは5℃。1
フォルスターは12℃前後を推奨している。2
ワインはマロラクティック発酵で美味しくなる
- マロラクティック発酵
- malolactic conversion
- Malolactic fermentation
- MLF
malic acidはリンゴ酸を意味し Lactic acidは乳酸を意味する。これらを組み合わせたMalolactic fermentationを略してMLF、またはmalolactic conversionと呼ぶ。
アルコール発酵は酵母がおこなう。
一方、マロラクティック発酵は乳酸菌がおこなう。乳酸菌は、酸味の強いリンゴ酸を酸味の弱い乳酸と炭酸ガスに分解する。このマロラクティック発酵によって酸味の角が取れてワインの味が柔らかくなる。それと同時に、発酵時の副産物によって香りが複雑になり味に奥行きが出る。ただしそれと引き換えに、果物のような新鮮さは少し失われる。
リンゴ酸は微生物の栄養源だが、これが乳酸菌による分解で枯渇するため、ワインボトル内の微生物安定性が向上し、腐敗しにくくなる。
紫外線劣化を避ける
太陽光に当てないこと。特に直射日光は避けること。ワインは紫外線が原因で劣化する。
蛍光灯や白熱灯にも紫外線が含まれているので避けること。
ワインセラーの扉はレギュラー(ガラスではないもの)にするか、紫外線カットする3層構造の合わせガラスを使用した扉にする。
地下室や納戸など、普段は光が差し込まない場所に保管する。
蛍光灯や白熱灯で紫外線量は5~20 μW/cm2ある。
真夏の直射日光に正対した場合で最大5500 μW/cm2ほどある。
しかしここでは、「そこまで過敏にならなくてもいいのでは?」という話もしておきたい。
例えば紫外線劣化を心配したとしよう。もし地下室や納戸のように日光も射さないし照明もほぼ使わないような暗い部屋で使用するなら紫外線の心配は一切ない。 でも地下室(例えばバーとか)だとしても、日常的に使うなら照明器具の光でも紫外線を含んでいるので局所照明をしているような暗い場所ではないのなら、尚更長期熟成には向かないのではないかという心配がある。
白熱電球や蛍光灯の紫外線量が5~15 μW/cm2なのに対して窓ガラス越しの室内の直射日光で2000~2500 μW/cm2なのでガラス越しの直射日光よ室内照明には200倍前後の差がある。(ガラス越しではない本当の直射日光なら真夏の13時頃に太陽と正対した(正面に向かい合った)場合で約5500 μW/cm2。)
ただしこれで実際にどれくらいワインが劣化するのかは正直分からない。なぜならこうだ。
ケイ素から作られる一般的な窓ガラスに使われるただの板ガラス(フロートガラス)でさえ紫外線透過率が60%で、40%は紫外線をカットする。もし窓ガラスが合せガラスなら99%がカットされる。更に、多くのワインボトルのガラスは濃いモスグリーン色や茶色で、これは主に紫外線の透過率を下げる役割を持つ。UVA、UVB、UVCのすべてを含む400 nm(ナノメートル)以下の波長の光を大幅に遮る。波長にもよるが、多くても透過率は1~2%以下になる。医療や化学で使う薬品の瓶が茶色なのもまた、紫外線をカットする事が目的。(茶色瓶の方がUVの透過率は低い。)
まず自宅の窓ガラスで紫外線が40~99%カットされる。(5000→3000程度。合わせガラスなら5000→50になる)
しかも部屋の壁や床に大部分が吸収され、反射したうちのごく一部だけがワインセラーに届く。(3000の1%だと仮定して30くらい。この時点で室内照明並の紫外線量)
ワインセラーのガラス扉でも更に40%カットされる。(30→18)
最後にワインボトルがその99%ほどの紫外線をカットする。
この計算だと、ワインに直接届く紫外線量は約0.18 μW/cm2。合わせガラスを使った住宅なら0.003 μW/cm2。
光源 | UV照度・UV強度 |
---|---|
真夏の直射日光に正対 | 5000~5500 μW/cm2 |
窓ガラスを透過した直射日光 | 2000~2500 μW/cm2 |
照明機器 | 5~20 μW/cm2 |
美術館・博物館の照明 | 0.01 μW/cm2 |
UVカット無しのセラー内のボトル内部 | 0.003~0.18 μW/cm2 |
これでもかなり不利な計算をしている。実際には窓から真夏の13時の一番強い直射日光が入ることはまずないし、1日の平均では5000 μW/cm2も無いので、上の計算よりも実際の数値はもっと小さいと考えられる。ちなみに美術館や博物館の展示に使われる照明は0.01 μW/cm2。こうして考えてみると、数値的にはそこまで大きな影響はないと思える。
ワインボトルに振動を与えてはいけない
ワインボトルへの振動は、ワインの熟成を妨げるだけでなく味わいのバランスが崩れることにも繋がる。
ワインをみだりに動かしたり、振動を与えてはいけない。
- VES (Vibration Exclusion System)
ユーロカーブというメーカーが独自開発している振動排除システムのこと。
振動の原因となるコンプレッサーを本体から分離することで、ボトルへ振動が伝わるの極々微かに留めることに成功している。
ユーロカーブの製品はフラッグシップモデルのレヴェラシオンについて以前紹介しているのでそちらを参照してほしい。(Eurocave Revelation(ユーロカーブ レヴェラシオン))
瓶を立てて長期熟成や保管をしても大丈夫
よく見かける情報として「瓶を横に寝かせないと、コルクが乾燥して空気が侵入してワインが劣化する」という言説がある。しかし必ずしもそうではない。
第一に、ワインボトルの内部にある空気は湿度がほぼ100%なので、コルクがワインに直接接触していなくても常に湿潤状態にあり、瓶内部のコルクが乾燥することはない。
第二に、通常ならワインセラー内は湿度がある程度高い状態に維持されるので、まともに管理していれば外部に面するコルクの外側も乾燥することはない。
第三に、まともに管理されていなければ、立てていようが寝かせていようがコルクの外側は劣化や収縮をする。寝かせている場合は液漏れを起こす。
要するにワインボトルのコルクを良い状態を維持するために重要なことは、立てるか寝かせるかではなく、保管場所の温度や湿度の管理だ。
造り手のところでは立てて保管されている
20年以上もの熟成に耐えられるような高品質の高級ワインを生産している生産者でさえ、ワインボトルを立てた状態で保管している。とはいえ、ワインセラーそのものがワインを寝かせて収納する構造になっているので、あまり気にする必要はない。
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